大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大分地方裁判所中津支部 昭和47年(ワ)66号 判決

原告

永松保人

被告

川瀬一己

ほか一名

主文

被告川瀬一己は原告に対し金一、二八二、四一三円およびこれに対する昭和四七年九月二日以降右完済まで年五分の金員を支払え

原告の被告はしや商事株式会社に対する請求、被告川瀬一己に対するその余の請求は棄却する

訴訟費用は原告と被告川瀬一己との間においては原告に生じた費用の三分の一を同被告の負担とし、その余は各自の負担とし、原告と被告はしや商事株式会社との間においては全部原告の負担とする

この判決第一項はかりに執行することができる

事実

一  当事者の求める判決

(一)  原告

原告に対し被告らは各自金一、六五三、三三三円およびこれに対する昭和四七年九月二日以降右完済まで年五分の金員を支払え

仮執行宣言申立

(二)  被告ら

原告の請求を棄却する

二  当事者の主張

(一)  原告

「請求原因」

1  昭和四七年一月二九日午後六時四〇分頃、中津市大字犬丸一、四六八番地の二、国道一〇号線において被告川瀬運転の普通乗用自動車(以下、本件自動車と略称)は同所を歩行中の原告に衝突し原告は負傷した。

2  右事故は被告川瀬の前方不注視などの過失により生じた。

3  被告会社は自己のために本件自動車を運行の用に供する者であり、本件事故はその運行により生じた。

4  被告会社は被告川瀬の使用者であり、本件事故は被告川瀬が被告会社の事業を執行するにつき生じた。

5  従つて被告川瀬は民法七〇九条、被告会社は自賠法三条本文、または民法七一五条一項本文に基き本件事故により原告が蒙つた次記損害を賠償する義務がある。

6  損害

(1) 治療費 七二〇円

原告は本件事故で頭部外傷、左鎖骨々折、左下腿骨々折、左脛骨踝骨折などの傷を負い、昭和四七年一月二九日以降同年五月二二日まで梶原病院に入院、同年同月二三日以降同年八月八日まで同病院に通院、同年一二月一八日以降同年同月二九日まで同病院に入院して治療を受けたが右は昭和四七年一二月一八日以降同年同月二九日までの右病院における治療費である。

(2) 付添費 一三七、〇〇〇円

右は一日当り一、〇〇〇円の入院付添費に原告の入院付添日数一三七を乗じたものである。

(3) 入院雑費 四一、一〇〇円

右は一日当り三〇〇円の入院雑費に原告の入院日数一三七を乗じたものである。

(4) 診断書料 一、六〇〇円

(5) 交通費 七五、五四〇円

(6) 農耕費 一四、〇〇〇円

原告は中津市役所に勤務のかたわら農業に従事していたが前記負傷のため昭和四七年度の田植などができず傭人費として右金額の支出を要した。

(7) 逸失利益 一七一、〇四三円

A 時間外手当 八、〇〇〇円

原告は前記負傷で負傷後四ケ月間中津市役所を欠勤したため一律月額二、〇〇〇円の時間外手当の支給を四ケ月間うけられなかつた。

B 超過勤務手当 二二、一三二円

右記のように四ケ月間欠動したため平均月額五、五三三円の超過勤務手当の支給を四ケ月間うけられなかつた。

C 勤勉手当差額 一〇、〇二〇円

原告は昭和四七年六月に五〇、一〇〇円の勤勉手当の支給を受けられることになつていたが、右記欠勤のため四〇、〇八〇円(差額一〇、〇二〇円)しか勤勉手当の支給を受けられなかつた。

D 定期昇給差額一三〇、八九一円

原告は昭和四七年七月に定期昇給することになつていたが右記欠勤により三ケ月昇給が延伸されたため将来勤務可能の二三年間に亘つてうべかりし定期昇給差額金二、九〇〇円の三ケ月分(八、九〇〇円)を失うことになる。右は年五分の中間利息をホフマン式計算により控除した右逸失利益の現価である。

(8) 慰藉料 一、四七八、〇〇〇円

前記入通院期間のほか左足拇趾背屈不全などの後遺障害(自賠法施行令別表一二級該当)を斟酌すれば前記負傷についての慰謝料の額は右が相当である。

(9) 弁護士費用 二五四、三三〇円

原告は本訴提起追行を弁護士前田慶一に委任し、着手金一二〇、〇〇〇円を支払つたほか成功報酬として一三四、三三〇円(勝訴額の七パーセント)の支払を約した。

7  よつて右損害合計二、一七三、三三三円から受領済自賠保険金五二〇、〇〇〇円を控除した残額一、六五三、三三三円およびこれに対する本件事故後である昭和四七年九月二日以降右完済まで民法所定年五分の遅延損害金の支払を求める。

(二)  被告ら

「請求原因に対する認否」

その1は認める。

その2は否認する。

その3は否認する。

その4のうち本件事故当時被告会社が被告川瀬を雇傭していたことは認めるがその余は否認する。

その6は不知。

「免責の抗弁」

かりに被告会社が本件自動車の運行供用者であつたとしても本件事故は泥酔して本件自動車の直前に飛出した原告の一方的過失により生じたものであり、被告川瀬、被告会社には何ら過失はない。なお本件事故と本件自動車の構造、機能との間には関係がない。

「過失相殺の主張」

少くとも原告の右過失は損害額の決定につき斟酌されるべきである。

(三)  原告

「免責の抗弁に対する認否」

否認する(但し、なお以下の後段を除く)

「過失相殺の主張に対する認否」

否認する。

三  証拠〔略〕

理由

一  請求原因1は当事者間に争いがない。

二  以下、請求原因2について検討する。

〔証拠略〕を総合すると、本件事故現場は中津市大字犬丸一、四六八番地の二先の東方は宇佐市、西方は中津市方面に通ずる直線で見通しのよい平坦な国道一〇号線であること、事故現場の同国道は幅員七・五米で歩車道の区別はないが外側線により幅〇・七米の路側帯が左右(南北)に設けられており、従つてこれを除く車道部分の幅員は六・一米で片側車道幅員はその二分の一、すなわち三・〇五米であること、被告川瀬は昭和四七年一月二九日午後六時四〇分頃、本件自動車(車幅一・四一米)を運転して宇佐市方面から中津市方面に向い(一〇〇米位前方に対向車があつたため前照燈を小さくして)、時速約五〇粁で左側車道のほぼ中央辺(そうすると本件自動車車体左端から外側線までの間隔は〇・八二米となる)を進行し本件事故現場にさしかかつたが当時同所左(南)側路側帯は歩道設置工事中であつたので歩行者はいないものと思い左前方は余り注視せず主として右方(中央辺側)を注視していたため、原告が右国道左側外側線から約一米余り内側の車道を自車と同方向(中津方面)に向つて歩行中であるのをその前方わずか六・八米ではじめて発見し右にハンドルをきるなどの措置をとつたが及ばず自車左前部を原告に衝突させたことが認められ、右認定に反しこれを覆すに足りる証拠はない。

前方注視義務が自動車運転者にとり基本的なものであること多言を要せず、殊に右記認定のように左側路側帯が工事中であれば歩行者が車道上を通行する可能性は大であるからこの方向に対する注視は一層厳重になされなければならないのに被告川瀬が左前方に対する十分な注視を怠り、これが原因で本件事故が発生したことは右記認定自体から明らかであるから同被告は過失の非難を免れることはできない。

三  以下、請求原因3について検討する。

請求原因3はこれを認めるに足りる証拠がなく、かえつて〔証拠略〕を総合すると、本件自動車はもと豊前市の訴外高橋弘所有であつたが昭和四六年八月、被告川瀬が同人からこれを買受け、本件事故当時は同被告所有であつたこと、本件事故当時セールスマンとして被告会社に勤務していた被告川瀬は本件自動車を出退勤(通勤)に用いることはあつたが被告会社に出勤後は同会社保有の貨物自動車を運転して職務に従事し、本件自動車を用いて勤務に従事することはなく、従つて被告会社が本件自動車の運行につき何らかの利益をえたり、その運行を支配したことはない、すなわち同会社は本件自動車の運行供用者ではなく、運行供用者はもつぱら被告川瀬だけであつたことがうかがえる。

四  以下、請求原因4について検討する。

本件事故当時、被告川瀬が被告会社に雇傭されていたことは当事者間に争いないが、被告川瀬が被告会社の事業を執行するにつき本件事故が発生したことを認めるに足りる証拠はない。

すなわち〔証拠略〕によると、本件事故当日被告川瀬は被告会社の得意先であるドライブイン「さかい」に商品(あられ)を配達して中津市方面に向う途中本件事故を起したことは認められる。しかし他方〔証拠略〕を総合すると、被告川瀬は被告会社のセールスマンとして注文取りと集金事務を担当していたこと、同被告は本件自動車を出退勤(その他の私用)に使用し、被告会社は社員保有の自家用車で社用を行うことを厳禁していたので、被告川瀬も出勤後は被告会社保有のダイハツ軽四輪を運転して職務に従事していたこと、被告会社における社員の勤務時間は午前八時から午後六時であり、被告川瀬は本件事故当日午前七時五五分に出勤し午後六時一分には退社したこと、同被告は退社数分後には帰宅し、妻川瀬寿賀子を本件自動車に同乗させ、夕食としてラーメンを食べるためドライブイン「さかい」に赴き其処に到着したが、妻寿賀子がラーメンではなく寿司を食べたいと言い出したので当日退社時に本件自動車に積んでいた前記商品を「さかい」に渡し、寿司を食べるため中津市方面に向つて進行中本件事故を起したこと、被告会社には商品配達に専従の社員が居り、右「さかい」への商品配達について被告川瀬は上司などから全く指示命令は受けておらず、たまたま当日が土曜日で「さかい」への配達が翌々日の月曜日になるため自己が食事に行くついでに(いわば無償奉仕的に)これを配達しようと思い退社に際し持ち帰つた商品を配達したものであることが認められ、これよりすれば前記「さかい」への商品配達という事実は、被告川瀬が退社後食事のため自己所有の本件自動車を運転するに関連して発生した偶然的事実に過ぎず(被告川瀬が運転した自動車が被告会社の行動支配が及びうる被告会社保有の自動車であつたような場合は別として)、その事実だけをもつて本件事故が事業の執行につき発生したものとみるのは困難であり、他にこれを証明するに足りる証拠はない。

五  そうすると原告の被告会社に対する請求は他の点について判断するまでもなく失当となるからこれを棄却する。

六  以下、請求原因6について検討する。

(1)  治療費(是認額七二〇円)

〔証拠略〕を総合すると、原告は本件事故で頭部外傷、左鎖骨々折、左下腿骨々折、左脛骨踝骨折などの傷を負い、昭和四七年一月二九日以降同年五月二二日まで(一一五日間)梶原病院に入院(第一回入院)、同年同月二三日以降同年八月八日まで(実日数一二日間)同病院に通院、同年一二月一八日以降同年同月二九日まで(一二日間)同病院に入院(第一回入院)して治療を受けたこと、昭和四七年一二月一八日以降同年同月二九日までの右病院における治療費の自己負担金として七二〇円を支払つたことが認められ右認定に反する証拠はない。

(2)  付添費(是認額七五、七〇〇円)

〔証拠略〕によると、原告は前記認定の第一回入院初期においては特に病状が重篤であり医師も付添を許可し、原告の妻永松敏子が入院当初から二週間付添看護をなし、その後(昭和四七年二月二日以後)同年三月三日までは付添婦を雇い、その費用として四八、七〇〇円支出し、抜釘手術のため前記認定の第二回入院をなしたときは四日間妻敏子が付添看護をなしたことが認められ、右認定に反する証拠はなく、付添費が一日当り一、五〇〇円であること公知の事実であるから是認すべき付添費総額は右記四八、七〇〇円に妻敏子の付添期間一八日を一、五〇〇円に乗じた二七、〇〇〇円を加算した七五、七〇〇円となるが右以上の付添費はこれを認めるに足りる証拠がない。

(3)  入院雑費(是認額二五、四〇〇円)

原告が通算一二七日間梶原病院に入院治療を受けたこと前記認定のとおりであり、入院一日当り二〇〇円の雑費支出を要すること公知の事実であるから二〇〇円に一二七を乗じた二五、四〇〇円が是認すべき入院雑費額となるが右以上の入院雑費を認めるに足りる証拠はない。

(4)  診断書料(是認額一、六〇〇円)

〔証拠略〕によると原告は診断書料として前後三回に亘り計一、六〇〇円を梶原病院に支払つたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

(5)  交通費(是認額一、七〇〇円)

〔証拠略〕によると、原告は梶原病院から第一回目の退院をするに際しタクシーを利用し、病院から自宅までのタクシー料金は約五〇〇円であること、原告は退院後バスを利用して右病院に通院したがバス料金は往復一〇〇円であることが認められ、右認定に反する証拠はなく、通院実日数が一二日間であること前記認定のとおりであるから、是認すべき交通費総額は五〇〇円に一二を一〇〇円に乗じた一、二〇〇円を加算した一、七〇〇円ということになるが右以上の(本件事故と相当因果関係のある)交通費を認めるに足りる証拠はない。

(6)  農耕費(是認額五、〇〇〇円)

〔証拠略〕によると、原告は前記負傷のためその勤務先である中津市役所を負傷の翌日から昭和四七年六月一五日まで欠勤したこと(これにより同人がその頃まで就労不能であつたことが推測される)、原告は勤務のかたわら三反五畝の田を耕作していたが右記就労不能のため昭和四七年度の田植に際し人を雇い、その人件費として一〇、〇〇〇円を支出したことが認められ、右認定に反する証拠はないが、〔証拠略〕によると原告は例年右人件費の約半額は支出していたことが認められるから、是認すべき額は右一〇、〇〇〇円の半額五、〇〇〇円とするのが相当である。右以上の農耕費を認めるに足りる証拠はない。

(7)  逸失利益(是認額一四七、八四〇円)

A  時間外手当(是認額八、〇〇〇円)

原告が前記負傷のためその勤務先である中津市役所を負傷の翌日である昭和四七年一月三〇日から同年六月一五日まで欠勤したこと前記認定のとおりであり、〔証拠略〕によると、原告は右欠勤のため昭和四七年二乃至五月までの四ケ月間、一律分時間外手当月額二、〇〇〇円(四ケ月分で八、〇〇〇円)の支給を受けられず同額の損害を受けたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

B  超過勤務手当(是認額二二、一三二円)

〔証拠略〕によると、原告は右欠勤のため(当然超過勤務ができず)、それまで一ケ月平均五、五三三円えていた超過勤務手当を四ケ月に亘つて失い、五、五三三円に四を乗じた二二、一三二円の損害を受けたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

C  勤勉手当差額(是認額一〇、〇二〇円)

〔証拠略〕によると、原告は右欠勤のため昭和四七年六月に本来ならば五〇、一〇〇円支給されるべき勤勉手当を四〇、〇八〇円しか支給されずその差額に当る一〇、〇二〇円の損害を受けたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

D  定期昇給差額(是認額一〇七、六八八円)

〔証拠略〕によると、原告は本来ならば昭和四七年七月に定期昇給し二、九〇〇円増額給料がえられる予定であつたが、前記欠勤のため三月昇給が延伸され同年一〇月に定期昇給したこと、右定期昇給延伸により原告は勤務全期間に亘り一年間に八、七〇〇円(右二、九〇〇円に三を乗じた金額)のうべかりし昇給差額利益を失うことになるが、中津市役所による職員の勤務年限は通常五七才であることが認められ、右認定に反する証拠はない。そうすると原告(〔証拠略〕によると昭和七年一月四日生)は昭和四七年、四八年度にすでに八、七〇〇円に二を乗じた一七、四〇〇円の昇給差額を失つたほか将来一五年間(右五七才から原告の現在の満年令四二才を控除)を一年間八、七〇〇円の昇給差額を失うがライプニツツ式計算により年五分の中間利息を控除したその現価は九〇、二八八円となるからその合計額は一〇七、六八八円となり、右以上の損害を認めるに足りる証拠はない。

(8)  慰藉料(是認額一、一〇〇、〇〇〇円)

原告の前記負傷が前記入通院治療を要するものであつたことおよび〔証拠略〕によると、原告の右傷は昭和四七年八月八日治癒したが終世回復不能の後遺症として(自賠法施行令別表一二級該当と認定されている)左足拇趾背屈不全などが存することが認められる点などを考慮すると慰藉料の額は、一、一〇〇、〇〇〇円が相当である。

(9)  弁護士費用(是認額一九六、〇四五円)

〔証拠略〕によると、原告は本訴提起追行を弁護士前田慶一原告訴訟代理人に委任し着手金として一二〇、〇〇〇円を昭和四七年八月二七日同弁護士に支払つたほか、成功報酬として勝訴額の七パーセント支払を約したことが認められ、右認定に反する証拠はない。そうすると弁護士費用額は一二〇、〇〇〇円(着手金)に前記(1)乃至(8)までの是認損害合計額一、三五七、九六〇円に後記過失相殺をなしその二〇パーセントを減じた一、〇八六、三六八円の七パーセントである七六、〇四五円(成功報酬)を加算した一九六、〇四五円とする。

七  以下、被告の過失相殺の主張について検討する。

〔証拠略〕を総合すると、原告は本件事故当日午後三時過ぎ頃中津市内の酒屋で焼酎一合位を飲んで帰宅し、午後六時前頃夕食に際しても焼酎一合位を飲み、中津市内での用事を思い出し、市内に赴くべく午後六時三〇分過ぎ頃前記国道一〇号線の北にある自宅を出、数分歩いて国道に出たところでこれを南に横断し、約一三〇米西の国道南側にある中津市内行きバス停留所に向つて二〇米位歩いた地点で後方から進行して来た本件自動車に衝突されたこと、当時衝突現場附近の国道左(南)側路側帯は歩道設置工事中で通行が困難であつたため原告は左側外側線の内側、しかも約一米余り内側の車道を歩行していたこと(前記認定の本件自動車が国道左側車道のほぼ中央辺を進行していたこと、その片側車道幅員が三、〇五米、本件自動車の車幅が一・四一米で車体左端から外側線までの間隔が〇・八二米であること、原告は本件自動車の左前照燈よりわずかに右、すなわち中央寄りの個所に衝突していること、被告川瀬は衝突直前右にハンドルを切つていること、後記のように原告は酒気を帯びて歩行していたことなどに照らすと右記のように原告は約一米余り車道内側を歩行していたと推定するのが相当であり、〇・二乃至〇・三米内側の車道を歩行していたとの原告本人の供述は採用できない)、事故直後梶原病院に収容された原告から採血のうえ鑑定した結果、血液一ミリリツトル中にアルコール〇・九ミリグラムが検出されたことが認められ右認定に反しこれを覆すに足りる証拠はない。

自動車の交通が激しい国道を、特に夜間歩行するに際し、路側帯が通行困難であつたとはいえ、微醺を帯びて左側車道を約一米余りも内側に入つて歩行することの危険なこというまでもないから、本件事故発生につき原告にもこの点に過失があつたといわざるをえない。

そして前記認定の被告川瀬の過失と右原告の過失の割合は八対二とみるのが相当である。

八  そうすると原告の被告川瀬に対する請求は前記(1)乃至(8)までの是認損害合計額一、三五七、九六〇円の八〇パーセントである一、〇八六、三六八円に前記(9)の弁護士費用一九六、〇四五円を加算した一、二八二、四一三円およびこれに対する本件事故後である昭和四七年九月二日以降右完済まで民法所定年五分の遅延損害金の支払を認める範囲においては理由があることになるからこれを認容し、その余の部分は失当として棄却する。

九  訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、仮執行宣言につき同法一九六条各適用。

(裁判官 上杉晴一郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例